研 究
多発性硬化症・神経免疫疾患研究チーム(MSチーム)

三須 建郎* , 西山 修平, 高井 良樹, 金子 仁彦, 小野 紘彦, 生田目 知尋,
松本 勇貴, 山崎 直也, 梅澤 周, 山本 尚輝, 大友 瑞貴, 阪本 直広.
(*チームリーダー)
大学院入学を希望される皆さんへ
わたしたちMSチームは、従来の脱髄疾患の概念を覆す数々の研究成果を世に送り出してきましたが、その基本はいつも患者さんを診ることで、ベッドサイドから生まれた研究ばかりです。あわせて基礎的研究も行いつつ、国内外の研究者と共同研究を推進し、みなで和気藹々と研究を行っています。ベッドサイドでの「なぜ?」に答えることに重きを置いており、実際に世界的な研究の多くは大学院生の手で行われてきました。私達と一緒に世界にインパクトを与えるような研究に携わってみませんか?
- 課題1. MOG抗体、AQP4抗体に関する臨床的研究
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MOG抗体、AQP4抗体に関する臨床的研究 視神経脊髄炎スペクトラム障害(neuromyelitis optica spectrum disorder: NMOSD)は、視神経と脊髄に主に障害が生じる自己免疫性の中枢性炎症疾患です。同様の中枢神経系自己免疫性疾患の一つに多発性硬化症(MS)がありますが、従来MSとNMOSDの区別は適切なバイオマーカーがなく困難なものでありました。しかしながら、2004年に東北大学とMayo clinicとの共同研究により、NMOSDのみに検出される自己抗体として抗アクアポリン4(AQP4)抗体を世界で初めて発見し(Lennon Lancet Neurol 2004, J Exp Med 2005)、両者の区別を明確にしました。両者の区別が明確になるにあたり、MSとNMOSD患者さんには異なる治療が必要なこと、抗AQP4抗体陽性のNMOSD患者さんに適切な治療を行わないと高頻度に再発することが次第に明らかとなり、NMOSD患者さんの予後を改善することに貢献してきました。また、AQP4はアストロサイトという脳のある種の細胞に多く発現すること、NMOSDでは補体依存性に血管周囲のアストロサイトが主に障害されることから、従来のミエリンという髄鞘が破壊される脱髄疾患の概念を超えたアストロサイトパチーという疾患概念を我々は提唱し、その臨床的特徴や病態を明らかにしてきました(Misu Brain 2007, Takai Brain 2021)。そして、その臨床の観察研究から、ステロイド減量の適切な治療戦略を提唱し(Takai MSRD 2021)、また、NMOSDの再発にはCluster期が存在することを報告しました(Akaishi Neurol Neuroimmunol Neuroinflamm 2020)。さらには、抗補体療法では速やかにCH50が低下すること(Namatame Heliyon 2021)、急性期に抗補体療法を導入することが治療戦略上有効である可能性を報告しており(Kaneko 神経治療学 2022)、これらは、本疾患の治療戦略を考慮する上で重要な報告となっております。このように、神経免疫における治療学の発展は著しく、当施設ではNMOの治療成績が生物学的製剤の登場によって向上していること(Yamazaki 2024, submission)、また本邦でも全国規模でMS, NMOの患者さんの治療成績が向上していることが確認されています(Matsumoto MSRD 2024)。
一方、2014年に我々は抗アクアポリン4抗体が陰性の一部のNMOSD患者に、ミエリンの最外層に発現するミエリンオリゴデンドロサイト糖蛋白(MOG)を標的する自己抗体が検出される抗MOG抗体関連疾患(MOGAD)が存在することを明らかにしました(Sato DK Neurology 2014)。加えて2017年に我々は、特にてんかん発作を伴い皮質表層の特徴的な病変を呈する一群が存在することを明らかにしました(Ogawa Neurol Neuroimmunol Neuroinflamm 2017, Fujimori JNNP 2017)。脱髄疾患の概念自体に大きな影響を与えうる事実であり、本研究はアメリカ神経学会雑誌の2017年3月号の巻頭言および表紙を飾り(図1)、2023年のMOGADの国際診断基準の主要臨床症候となっています。また、抗MOG抗体と抗AQP4抗体とが陽性となる患者の脳画像を比較検討することによって、抗MOG抗体は大脳皮質下白質の病変が抗AQP4抗体より有意に多いこと、またそのような皮質下の病変には髄腔での抗MOG抗体の産生が関与することも明らかにしました(図2, Matsumoto JNNP 2020, Matsumoto Brain 2024) 。MOGADは2023年に診断基準ができたばかりのホットトピックであり、その病態解明が急務となっています。現在、国内の医療機関から研究目的での抗MOG抗体の測定を受け付けているほか、前向き研究を通じて臨床像の解析を進めています(抗MOG抗体測定の申し込みはこちら)。
このように我々はMS、NNOSD、MOGADを中心に、基礎及び臨床研究を通して多角的に中枢性炎症疾患の研究を行い、国際雑誌への投稿、国内外の学会発表を継続してきています。また、これらの多くの仕事は大学院生により報告されています。
図1. 抗MOG抗体における皮質性病変。脳溝に沿った信号変化と血流増加を特徴とする。 図2 MOGADはNMOと異なり、中枢での自己抗体の産生がある - 課題2. 炎症性脱髄性疾患の病態に基づいた病勢や予後に関するバイオマーカーの研究
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炎症性脱髄性疾患の病態に基づいた病勢や予後に関するバイオマーカーの研究 髄液のバイオマーカーの解析により、NMOSDの再発急性期では、アストロサイトマーカーであるGFAPが脳脊髄液中で著明に上昇し、MSなど他疾患との鑑別に有用である他、再発後の予後予測因子にもなり得ることを報告しています(Misu JNNP 2009, Takano Neurology 2010)。また、NMOSDではAQP4抗体がアストロサイト足突起を補体介在性・補体非介在性の2つの経路で傷害していくこと報告しています(Nishiyama Biochem Biophys Rep 2016)。さらには、NMOSD患者由来白血球の解析では、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)やナチュラルキラーT細胞(NKT細胞)での補体受容体CD88発現が有意に亢進していることが判明しました(Nishiyama J Neuroinflamm 2022) 。加えて、AQP4免疫複合体と補体、そしてB細胞がNMOSD患者のTh17系炎症性サイトカイン産生に必要であることを報告しました(Nishiyama Sci Rep 2024、図3)。このようにNMOSDの再発トリガーを明らかにし、より効果的かつ安全な治療戦略を開発しています。
一方、近年、MOG抗体による様々な神経症状を起こす疾患(MOGAD)がトピックとなっています。国外との協力研究により、MOGADではNMOSDと異なり、脳脊髄液中GFAPを認めないことを報告し(Kaneko JNNP 2016)、MOG抗体関連疾患がNMOとは異なる病態であることが明確に解ってきています。その一方で、急性期病態に関連するサイトカインはMOGADとNMOSDにおいて、IL-6を含むTh17関連サイトカインが共通して上昇しており、MSとは異なっています(Kaneko JNNP 2018)。今後、IL-6阻害によりMOGADの再発予防が可能である可能性があり、現在治験が進行中です。さらには、髄液中補体活性化パターンについて、抗AQP4抗体陽性NMOSDでは髄液C5b9が上昇することを我々は報告していました(Kuroda J Neuroinflamm 2013)が、最近、MOGADでは抗AQP4抗体陽性NMOSDよりも弱い一方で、一部の重症例では補体の活性化が目立つことを報告しており、更なる解析を続けています(Kaneko Neurol Neuroimmunol Neuroinflamm 2024 図4)。図3 AQP4免疫複合体と補体、そしてB細胞がNMOSD患者のTh17系炎症性サイトカイン産生に必要 図4 - 課題3. 中枢性炎症性脱髄疾患におけるヒトおよび実験動物における病理学的研究
-アストロサイト障害及び脱髄機序の解明 -
中枢性炎症性脱髄疾患におけるヒトおよび実験動物における病理学的研究-アストロサイト障害及び脱髄機序の解明 わたしたちの研究チームは中枢性炎症性脱髄疾患の病理組織学解析に基づき、NMOSDやBalo病、MOG抗体関連疾患などの病態を明らかにしてきました。NMOSDはAQP4抗体により生じる炎症性疾患です。AQP4は中枢神経内においてアストロサイトに発現していますが、我々はNMOSD症例の脊髄において、アストロサイトが軸索や髄鞘に比して強くかつ広範囲で障害を受けることを見出し、アストロサイトパチーという疾患概念を提唱しました(Misu Brain 2007)。また、そのアストロサイトが破壊された後に再生される過程をとらえることで、NMOSD病変の経時変化を評価できることから、世界で初めてアストロサイトパチーの組織学的病期分類を提唱しています(Takai Brain 2021)。一方で、NMOSDにおける重症度や組織障害に関わる因子、アストロサイト再生のメカニズム、二次性脱髄機序など未解明の課題も多く残されていることから、動物モデルを用いた検討も行っています。他施設との共同研究によって開発した、AQP4の細胞外ドメインに抗親和性を示すモノクローナルAQP4抗体を用い、マウスの脳に直接注入する、あるいは炎症を起こしたラットの腹腔内に注入することで、NMOSDと類似の病変を作成することに成功しました(Kurosawa Acta Nruopathol Commun 2015)。また、NMOSD患者血清に由来するAQP4抗体の評価をより適切に行うため、発現するAQP4をヒト化したラットを用いた検討も行い、その有用性を報告しています(Namatame Int J Mol Sci 2024)。MOG抗体関連疾患は、髄鞘最外層に発現するMOG蛋白を標的抗原とした炎症性脱髄疾患であり、2023年に国際診断基準が提唱された比較的新しい疾患概念です。MOG抗体関連疾患は、MSとは異なる炎症性脱髄病態を呈しますが、病理学的にもADEMに類似した血管周囲性脱髄病変が主体であり、CD8陽性T細胞が優位であるMSとは異なり、CD4陽性T細胞の組織浸潤が目立つこと、膜侵襲複合体の組織沈着がNMOSDに比して軽度であることなど、MOG抗体関連疾患の独自性を報告しています(Takai Brain 2020)。今後、臨床表現型や重症度と病理組織学的な特徴の比較検討などを行っていく予定です。また、これまでに培ってきた炎症性脱髄病変に関する知見をもとに、未分類の炎症性脱髄病態を病理学的に分類する方法を検討しています(Takai 2022 神経免疫学会)。このように、ヒト由来の組織検体を用いた研究が行えることも、当教室の魅力の一つであると考えています。
- 主な研究業績
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1. Takai Y, Misu T, Suzuki H, et al. Staging of astrocytopathy and complement activation in neuromyelitis optica spectrum disorders. Brain. 2021; in press. 2. Takai Y, Kuroda H, Misu T, et al. Optimal management of neuromyelitis optica spectrum disorder with aquaporin-4 antibody by oral prednisolone maintenance therapy. Mult Scler Relat Disord. 2021 Jan 22;49:102750. 3. Namatame C, Misu T, Takai Y, et al. CH50 as a putative biomarker of eculizumab treatment in neuromyelitis optica spectrum disorder. Heliyon. 2021 Jan 8;7(1):e05899. 4. Matsumoto Y, Misu T, Mugikura S, et al. Distinctive lesions of brain MRI between MOG-antibody-associated and AQP4-antibody-associated diseases. JNNP. 2020 Dec 30:jnnp-2020-324818. 5. Takai Y, Misu T, Kaneko K, et al. Myelin oligodendrocyte glycoprotein antibody-associated disease: an immunopathological study. Brain. 2020 May 1;143(5):1431-1446. 6. Hillebrand S, Schanda K, Nigritinou M, Tsymala I, Bohm D, Peschl P, Takai Y, Fujihara K, Nakashima I, Misu T, Reindl M, Lassmann H, Bradl M. Circulating AQP4-specific auto-antibodies alone can induce neuromyelitis optica spectrum disorder in the rat. Acta Neuropathol. 2019 Mar;137(3):467-485. 7. Kaneko K, Sato DK, Nakashima I, et al. CSF cytokine profile in MOG-IgG+ neurological disease is similar to AQP4-IgG+ NMOSD but distinct from MS: a cross-sectional study and potential therapeutic implications. JNNP. 2018 Sep;89(9):927-936. 8. Nishiyama S, Misu T, Shishido-Hara Y, et al. Fingolimod-associated PML with mild IRIS in MS: A clinicopathologic study. Neurol Neuroimmunol Neuroinflamm. 2017 Nov 10;5(1):e415. 9. Ogawa R, Nakashima I, Takahashi T, et al. MOG antibody-positive, benign, unilateral, cerebral cortical encephalitis with epilepsy. Neuro Neuroimmunol Neuroinflam 2017; e322. 10. Fujimori J, Takai Y, Sato DK, et al. Bilateral frontal cortex encephalitis and paraparesis in a patient with anti-MOG antibodies. JNNP. 2017; 88: 534-536.
(Misu T, Tohoku Universityで網羅的に検索、日付で最新順にソートしたもの)
- 抗ミエリンオリゴデンドロサイト糖蛋白(MOG)抗体の検査について
- CBA法を用いた抗MOG-IgG1抗体測定が、我々の検査技術の移管により民間の検査会社で開始されました。実質的な診断目的での検査はこちらでの検査をご検討お願いします。
https://www.cosmic-jpn.co.jp/contractservice/
本測定は東北大学の倫理委員会の承認を経て、経過観察が可能な研究目的のみを対象に行っています。そのため、検査にあたっては患者様より、研究の同意取得をお願いします。後日、その後の診断やフォローの内容をメール、お手紙あるいはお電話にてお伺いさせていただく場合がございます。ご協力いただけますと幸いです。
培養細胞を用いた特異性の高い方法(cell-based assay: CBA法)での測定結果(定性)を報告致します。抗MOG抗体は、研究段階にある自己抗体です。研究目的であることをご承知の上、ご依頼ください。結果を学会もしくは論文発表に用いる際は必ずご連絡ください。
検査順序
1.「患者さんへの説明文」を良くお読みになり、検査の意義および検体の扱いについてご理解いただきます。
2.「同意書」に日付およびサインをしていただきます。
3.採血をしていただき、病院の検査室等で「血清」に分離いただきます。
4.冷凍宅配便で凍結した血清/髄液(1ml以上[最低500μl])を病院から送付いただきます。その際、主治医に記載いただいた①「検査申込書」、②同意書、③病歴のサマリー、④画像のCD-Rを同封いただきます。送料はご負担ください。平日(月~金)午前中着で手配願います。 申し込み方法の詳細は「検査申し込み方法」をご参照ください。画像の送付忘れが多くなっておりますのでお気をつけください。
お問い合わせ方法
事前連絡を必須とします。ご不明な点については、必ず電子メールでお問い合わせください。電話でのお問い合わせにはお答えできません。
お問い合わせ先:mogantibody@yahoo.co.jp
申込用紙、患者さんへの説明文書、同意書は下記から取得してください。
同意書などは下記からダウンロードください。