研究トピックス
早期発症・急速進行性の経過を取り好塩基性封入体を呈するFUS変異陽性の家族性筋萎縮性側索硬化症
2010/03/15
FALS with FUS mutation in Japan with early onset, rapid progress and basophilic inclusion
筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic lateral sclerosis;ALS)は運動ニューロンを選択的に侵す難病である。5-10%が家族性であり、家族性のうち20%前後はSOD1の変異が原因となっている。2009年にfused in sarcoma (FUS, 別名translated in liposarcoma: TLS) 遺伝子の異常がアフリカや欧米諸国で家族性ALSの原因遺伝子として報告された。我々は日本人の家族性ALSの大家系において、欧米と共通するR521C位のFUS変異を見出した(図)。
この家系では4世代にわたる46人の家系構成員のうち実に半数にあたる23名が症状を呈しており、浸透率は100%と見積もられる。筋力低下の症状が出現が平均35.3歳であり発症年齢が低い。本家系内の剖検に御協力いただいた症例では顕著な脳幹被蓋部の萎縮が見られ、細胞質の好塩基性封入体の存在が特徴的である。東北大学神経内科では以前より家族性ALSの遺伝子検査を行ってきたが、遺伝子が未確定で常染色体優性遺伝の遺伝形式をとる40家系についてFUS遺伝子をスクリーニングしたところ4つの変異(S513P, K510E, R514S, H517P)をエクソン14および15に見出した。アジア人種においてもFUS変異を持つ家族性ALSは早期発症・急速進行・高浸透率という特徴を持つ。一方我々が見出したS513P変異例は60歳前後発症と緩徐な経過を取る。FUSはTDP43と類似の構造を持ち共にDNA/RNA代謝に重要な働きをすることがわかっており、ALSの病態解明に重要な手掛かりを与えるものと考えられる。好塩基性封入体の病態への関連性の解明が今後の課題である。
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