研究トピックス
ALSラットモデル脊髄におけるコンドロイチン硫酸プロテオグリカン沈着
2008/04/25
"Accumulation of chondroitin sulfate proteoglycans in the microenvironment of spinal motor neurons in amyotrophic lateral sclerosis transgenic rats"
○水野秀紀 (Mizuno H, Warita H, Aoki M, and Itoyama Y. J Neurosci Res, Published Online: 25 Apr 2008 )
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は運動ニューロンの選択的な細胞死が引き起こされ、全身の萎縮と脱力が進行する原因不明の難治性神経変性疾患である。最近、運動ニューロンの変性にはアストロサイトなどのグリア細胞が大きく関与することが注目され、運動ニューロンをとりまく細胞外微小環境が注目されている。また、近年までに成体中枢神経系に神経幹/前駆細胞が存在することが明らかとなり、ALSに対してもそれらを用いた神経再生療法が新たな治療戦略として関心を集めている。
このような中で我々は、細胞外基質の主要構成成分として知られ、神経軸索再生阻害活性や細胞遊走阻害活性をもつコンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)に注目、中枢神経系に発現するneurocan, versican, phosphacanのALSでの病態進行に伴う変化を解析した。我々の教室で開発されたALSモデルラット(His46Arg変異SOD1遺伝子導入ラット; Nagai, M, et al. J Neurosci 2001)を用い、免疫組織化学的手法で解析したところ、主病変部位である前角部を中心に有意なCSPG沈着亢進が明らかとなった。(図1) なかでもneurocanは発症前から始まる進行性の沈着を示し、発症後期で成体脊髄では生理的にほとんど検出されない全長型のisoformを検出した。 またCSPGとアストロサイトとの共局在が認められ、同細胞のCSPG沈着への関与が示唆された。(図2)
本研究によって、ALSのような慢性進行性の変性病態でのCSPG沈着が明らかとなり、反応性アストロサイトとともに再生に対して非許容的な環境を形成している可能性が示唆された。将来的な再生療法開発には、このような細胞外微小環境を再生しやすい場へと変化させる戦略も考えられ、今後CSPG沈着亢進機構の解明やCSPG分解をもたらす介入研究が必要と考えられた。
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