研究トピックス
FUS/TLS遺伝子のR521C変異家系における神経・グリア内封入体の進展様式の病理学的解析
2012/08/20
FUS/TLS-Immunoreactive Neuronal and Glial Cell Inclusions Increase With Disease Duration in Familial Amyotrophic Lateral Sclerosis With an R521C FUS/TLS Mutation.
鈴木直輝*(Suzuki N, Kato S, Kato M, Warita H, Mizuno H, Kato M, Shimakura N, Akiyama H, Kobayashi Z, Konno H, Aoki M)
J Neuropathol Exp Neurol (in press)
2009年にfused in sarcoma / translated in liposarcoma (FUS/TLS) 遺伝子の異常がアフリカや欧米諸国で家族性の筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic lateral sclerosis;ALS)の原因遺伝子として報告された。我々は日本人の家族性ALSの大家系において、欧米と共通するR521C位のFUS変異を見出し、臨床型について報告した(J Hum Genet 2009)。
FUS/TLS変異ALSにおいて好塩基性封入体(Basophilic inclusion: BI)やFUS/TLS陽性の細胞内封入体は病理学的なマーカーとして認識されている。今回は本家系内の3剖検例(それぞれ発症後1年、3年、9年)に関しての病理学的解析を詳細に行った。もっとも神経細胞脱落が顕著なのは脊髄運動ニューロンだったが、病期が長くなるにつれ、BI、神経細胞内封入体およびグリア細胞内封入体の分布は運動系以外にも拡がっていった。発症1年の時点において、封入体は脊髄前角以外に黒質にも観察された。グリア細胞内封入体は神経細胞内封入体よりも広範に、発症後早期からみられた。BIよりも免疫染色によるFUS/TLS陽性封入体の分布の方が広範であった。
近年、神経変性疾患において細胞間の病態の伝達機構が注目されており、同一変異・同一家系内の症例間で病期による病変分布を検討することは細胞・動物モデルでの理論構築に大きな示唆を与えると考えている。
* 現在、ハーバード大学幹細胞再生生物学分野、Eggan研究室へ留学中
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