研究トピックス
MOG抗体関連の病理学的特徴
2020/06/03
Myelin oligodendrocyte glycoprotein antibody-associated disease: an immunopathological study.
Yoshiki Takai, Tatsuro Misu, Kimihiko Kaneko, Norio Chihara, Koichi Narikawa, Satoko Tsuchida, Hiroya Nishida, Takashi Komori, Morinobu Seki, Teppei Komatsu, Kiyotaka Nakamagoe, Toshimasa Ikeda, Mari Yoshida, Toshiyuki Takahashi, Hirohiko Ono, Shuhei Nishiyama, Hiroshi Kuroda, Ichiro Nakashima, Hiroyoshi Suzuki, Monika Bradl, Hans Lassmann, Kazuo Fujihara, Masashi Aoki, the Japan MOG-antibody Disease Consortium.
Brain, Volume 143, Issue 5, May 2020, Pages 1431–1446
要旨:MOG (Myelin oligodendrocyte glycoprotein) 抗体関連疾患は、髄鞘最外層に発現するMOGの立体構造を認識する抗MOG抗体の発見によって、近年確立された疾患体系です。その臨床表現系は多彩で、視神経脊髄炎(Neuromyelitis optica spectrum disorder: NMOSD)、急性散在性脳脊髄炎 (Acute disseminated encephalomyelitis: ADEM)、皮質性脳炎などを呈しますが、典型的な多発性硬化症 (Multiple sclerosis: MS) 患者血清中の抗MOG抗体は基本的に陰性であるとされています。しかし、MOG抗体関連疾患の病理学的特徴は、過去の症例報告においてMS PatternUとする結論が大勢でした。MS PatternUは広範な脱髄病巣(Confluent demyelination)と、補体や免疫グロブリンなどの液性免疫因子の組織沈着を特徴とします。
この臨床的特徴と病理学的所見の矛盾を解明するため、我々は、11例の抗MOG抗体陽性症例(発症年齢中央値29歳、男女比5:6、臨床表現型;ADEM3例、脳症を伴わない多発脳病変3例、白質脳症3例、皮質性脳炎2例)から得られた脳生検検体を用いて、脱髄を呈した167病変を検討した結果、その大半はADEMの特徴とされる単一血管周囲性脱髄(Perivenous demyelination:153/167病変)であり、全脱髄病変中37%において、MOGの選択な脱落が確認されました。これらの脱髄病巣では、時に血管周囲のIgG沈着を伴っていましたが、補体の沈着はほぼ認められませんでした。脱髄病巣内及び周囲の血管における炎症細胞浸潤はマクロファージ(1814±1188/mm2)、及びT細胞(2286±1951/mm2)が主体であり、B細胞の浸潤を伴い(468±817/mm2)、浸潤しているT細胞はCD4優位でした(CD4+ vs CD8+; 1281±1196/mm2 vs 851±762/mm2, P<0.01)。
これらの病理学的特徴は臨床的な表現型によらずADEMの病理所見と類似していましたが、AQP4抗体陽性NMOSDやMSとは明確に異なり、本疾患が中枢性炎症性脱髄疾患における独立した疾患概念であることが示唆されました。
文責 井良樹
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