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研究トピックス

ユビキチン-プロテアソーム機構は骨格筋幹細胞の維持に必須である

2018/11/08

 

The Ubiquitin-Proteasome System Is Indispensable for the Maintenance of Muscle Stem Cells.
Yasuo Kitajima, Naoki Suzuki, Aki Nunomiya, Shion Osana, Kiyoshi Yoshioka, Yoshitaka Tashiro, Ryosuke Takahashi, Yusuke Ono, Masashi Aoki, Ryoichi Nagatomi
Stem Cell Reports
Published online: November 8, 2018

タイトル:「ユビキチン-プロテアソーム機構は骨格筋幹細胞の維持に必須である」
著者:北嶋康雄、鈴木直輝、布宮亜樹、長名シオン、吉岡潔志、田代善崇、高橋良輔、小野悠介、青木正志、永富良一

【研究内容】
ヒトの体において、筋肉は体重の約40%を占める最も大きな臓器です。筋肉では健康な状態を保つために日々損傷と再生が繰り返されており、この筋肉の再生に欠かせないのが筋肉に存在する幹細胞であるサテライト細胞です。筋肉のサテライト細胞を正常に保つ仕組みの解明は、筋肉そのものを正常に保つメカニズムの解明につながると考えられています。
通常、健康な細胞では新しいタンパク質が作られる一方で不要なタンパク質は壊されています。この不要なタンパク質を分解する機構の一つがプロテアソームと呼ばれる機構で、プロテアソームの破綻は様々な疾患につながることが最近の研究で示されてきました。 本研究では、サテライト細胞とプロテアソームによるタンパク質分解との関係に着目しました。研究グループは初めに、プロテアソームを構成するRpt3というタンパク質の欠損をサテライト細胞でのみ誘導できるマウスを作出しました。このRpt3を欠損したマウスではプロテアソームによるタンパク質分解が抑制され、Rpt3欠損を誘導してから約2週間でサテライト細胞が減少し、筋肉の再生が正常に行われないことが明らかになりました。さらに、培養細胞を用いて解析した結果、Rpt3の欠損によりサテライト細胞の増殖および筋分化注3が抑制され、細胞死が誘導されることが明らかになりました。また、この増殖抑制や細胞死の際に、細胞増殖などに関わることが報告されているp53というタンパク質の過剰な活性化が起こっていることを見出しました。そこで、p53の機能を人為的に抑制すると、サテライト細胞の増殖抑制が軽減されたことから、タンパク質分解系の抑制により引き起こされるサテライト細胞の機能不全にp53が関与していることを突き止めました。これまでに、タンパク質分解系の不全やp53は老化との関連も指摘されており、今回の発見は筋肉の幹細胞であるサテライト細胞とタンパク質分解系、さらには老化をつなぐ研究の端緒になると考えます。本研究では、タンパク質分解系が筋肉の幹細胞を維持するために必須であり、それらの破綻は筋肉の再生不全を引き起こすことを明らかにしました。これらの成果は、幹細胞研究の基礎的な理解と再生医療への応用が期待されます。

【用語説明】
注1. プロテアソーム系:細胞質や核内の不要なタンパク質を分解する巨大な酵素複合体。
注2. サテライト細胞:筋線維の表面に衛星(サテライト)のように存在している細胞で、筋肉の幹細胞とも呼ばれる。筋肉が障害を受けた時に、その傷害された部分を治す役割を果たしており、筋肉の再生に欠かせない細胞である。
注3. 筋分化:筋肉は多核の筋線維によって構成される。最初は別々であった細胞が、融合し太くなった筋細胞を作る過程を筋分化と呼ぶ。

東北大学プレスリリース
https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2018/11/press20181109-1-kinniku.html

本研究は運動学教室との共同研究です。

 

 
概念図.PNG (概念図.PNG)

 

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