研究トピックス
カオス理論による多発性硬化症の病態説明
2018/04/14
カオス理論による多発性硬化症の病態説明
Chaos theory for Clinical Manifestations in Multiple Sclerosis.
T Akaishi, T Takahashi, I Nakashima.
Medical Hypotheses (2018)
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S030698771830032X
多発性硬化症(MS)は、時間的および空間的に散在する中枢神経系の脱髄病変をきたす疾患で、自己免疫性の機序が疑われている。現在までその時間的および空間的な散在性を説明できる理論は存在せず、MSの病態の全体像は解明されていない。 以前から自然界における予測困難で不規則な事象の説明には複雑系が応用され、特にカオス理論は経済学、気象学、天文学などの分野で幅広く応用されてきた。しかし医学、とくに個々の疾患において同理論の応用性が検討されたことはこれまでなかった。
今回われわれは、MSの病因とみなせる免疫学的因子の強度を時間、脳内空間座標、および同座標における免疫学的フィードバック機構強度に規定される多変数関数とみなせば、同フィードバック機構強度が単一とみなせる3次元空間体積の大きさ次第で脱髄病変の時間的および空間的散在性を動的に再現できることを示した。また、脱髄病変の出現と潜在性の脳萎縮のそれぞれに異なる免疫強度閾値を設定することで、1次進行型(PPMS)、再発寛解型(RRMS)、2次進行型(SPMS)の全ての病型を一元的に説明できることも分かった。
これまで主に数学、物理学、経済学の領域で積み重ねられてきたカオス理論の知見を医学に応用することで、これまでその臨床経過や再発のタイミングを説明することが困難であったMSをはじめとする未解明の自己免疫疾患の臨床像を包括的に説明できる可能性がある。今後、同理論の臨床分野における実用性の裏付けと、さらに臨床医学分野への応用性に優れた理論への発展が望まれる。(文責:赤石 哲也)
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