研究トピックス
αシヌクレインリン酸化によって誘導される細胞死は小胞体ストレスを介する
2008/08/05
Serine 129 phosphorylation of alpha-synuclein induces unfolded protein response-mediated cell death.
パーキンソン病は、無動・振戦・固縮を三徴とし、神経内科診療における代表的疾患のひとつである。レボドパの内服が症状を軽減しうるが病態は未解明であり、疾患そのものの進行を抑制しうる治療法はいまだ存在しない。病理学的には中脳黒質のドパミン産生細胞の変性脱落と、レビー小体と呼ばれる構造物が特徴的である。レビー小体はパーキンソン病関連疾患に特異的に現れることから、パーキンソン病における神経変性と密接な関連があるものと考えられている。近年、αシヌクレインという蛋白がレビー小体の中心的構造物であることが判明し、さらにレビー小体中のαシヌクレインは129セリンでリン酸化修飾を受けている事が報告された。また、αシヌクレインの点突然変異、また二重重複・三重重複が常染色体優性遺伝の家族性パーキンソニズムをきたすことからもαシヌクレインはパーキンソン病発症におけるkey moleculeと考えられている。
今回我々はαシヌクレインの神経細胞死における役割について、特に129セリンのリン酸化に着目し実験細胞を用いて検討を行った。まず野生型のαシヌクレイン、または129セリンのリン酸化を阻害する変異S129Aの過剰発現細胞株を作製した。野生型αシヌクレイン過剰発現細胞に低濃度ロテノンを暴露すると、初期におよそ80%のαシヌクレインがリン酸化されていることが明らかとなり、さらに後期にはレビー小体類似の細胞内凝集体と細胞死が観察された。しかし、S129A変異体では、αシヌクレインのリン酸化・細胞内凝集体・細胞死のいずれも生じなかった。細胞内凝集体は、β-COPと呼ばれる小胞体からゴルジへの輸送に関わる蛋白と共在していた(図1)。次いで細胞死に至る経路の検索を行うと、ミトコンドリア障害の出現に先行して著明な小胞体ストレスの誘導が認められた。αシヌクレインが小胞体からゴルジへの輸送を阻害するとの報告があり、本実験の結果と合わせ考察すると、αシヌクレインの小胞体−ゴルジ輸送阻害の結果として輸送途中に凝集体が生じ、また小胞体ストレスが誘導されているものと考えられた(図2)。αシヌクレインのリン酸化はこれらを誘導するために必須であった(図2)。本論文は、パーキンソン病の分子病態において注目されているαシヌクレインのリン酸化と小胞体ストレスの関わりをはじめて明らかにした研究である。
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