研究トピックス
ALSにおける重力の関与に関する考察
2019/08/19
Consideration of Gravity as a Possible Etiological Factor in Amyotrophic Lateral Sclerosis
Tetsuya Akaishi, Toshiyuki Takahashi, Michiaki Abe, Masashi Aoki, Tadashi Ishii Medical Hypotheses (2019)
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は主に運動ニューロンが進行性に障害される原因不明の神経疾患です。ALSでは運動ニューロンばかりが障害されると考えられていた時代もありましたが、現在では感覚神経や自律神経も様々な程度でおかされうることが知られています。これまで複数の重要な遺伝子異常や、軸索輸送の障害が同定されましたが、ALSにおける複雑な神経障害の分布を完全に説明できる理論はまだありません。
今回私たちは、全身に分布する神経のタイプ(運動・感覚・自律神経)、長さ、走行経路を網羅的に検討し、ALSにおいて障害されやすい神経に共通してみられる傾向を探りました。その結果、解剖学的肢位における神経の走行する方向(上行・水平・下行)が重要である可能性が示唆されました。具体的には、立位で重力方向に沿って下行する神経がALSでは障害されやすい傾向が見られました。一方でALSではしばしば利き手側優位の片側上肢からの発症がみられますが、この事実からは軸索遠位の方向だけでなく、神経および筋の使用頻度も重要であることがうかがわれます。これらを矛盾なく説明する場合、軸索末端における老廃物の逆行性軸索輸送による回収が垂直方向のニューロンではわずかに重力から影響を受け、それが数十年という長い時間経過のなかで主に下行ニューロンの軸索末端への老廃物の堆積という形をとって神経機能障害をきたすという仮説が考えられました。
軸索末端における老廃物の産生速度、逆行性軸索輸送の効率、重力による軸索末端への老廃物堆積、というステップを経て発症するという本仮説の今後の検証が待たれます。
赤石 哲也
←新しい記事へ | ↑一覧へ | 以前の記事へ→ |