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研究トピックス

重複する精神疾患の同一次元での扱いを可能にする神経心理モデル

2018/07/01

 

重複する精神疾患の同一次元での扱いを可能にする神経心理モデル

Unified Neural Structured Model: a new Diagnostic Tool in Primary Care Psychiatry.
Tetsuya Akaishi. Medical Hypotheses (2018);118:107-113.

現在、精神症状の評価はDSM-Vを用いた操作的診断に基づき行われる。かつての精神分析的な手法と異なり標準化された診断項目のリストを用いることで評価者間の診断の相違は最小化され、表象として均質な集団を用いた臨床研究や概念的な議論が可能となる一方、最大公約数的な議論のなかで各人の内的世界に生じる応力の源や力動は扱いが難しくなった。表象としての精神症状は必ずしも根治療法の対象ではなく、またアナロジーはしばしば疑似科学や優生思想の論拠ともなる。私たちはいま新しい神経心理学的なドグマを必要としている。 本論文ではまず自己を物質的な実体ではなく、環世界の変化に応答する力動的過程と捉える。言い換えれば、客体の変化に応じた主体側の応力こそが「我」の源であると考える。そのうえで本モデルにおいて中核的要素として扱われる環境、知性、学習といった要素を、互いにフィードバック制御しながら最終的に「我」たる内的世界の恒常性を達成するものとみなす。内面的バランスが維持できなければ主体は応力を解消すべく客体を破壊するか、他者からの志向性に代表される客体変化に対し自らを閉殻する他ない。主体の安定を保つために必要な特性としては、自他境界の柔軟性、客体変化を知覚する知性、ニューラルネットワークの学習係数に相当する学習効率などが挙げられる。主体に生じる応力は、環世界の変化に対する反作用的もしくは共振的な力動と捉えられ、両者の間には認知に関する細分化された要素のレベルで相関が想定される。これらの前提のもと各患者の精神症状を本論文の構造モデルに当てはめることで、各患者における根治療法の対象となる認知・知覚の要素をより正確に抽出できる可能性がある。
本論文で提示した構造そのものは、時代や民族の違いによって柔軟に組み直されうる余地を大きく残す。従来の宗教学、社会倫理学、一般内科学、精神病理学、神経心理学などを包括した医学分野の構築と、それらを体系的に修得した治療者による個別化医療が望まれる。(文責:赤石哲也)

 

 

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